東京地方裁判所 昭和36年(モ)14043号 判決
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〔事実と判断〕本件土地は昭和二八年二月一日債権者の先代が債務者に賃貸したのであるが、右賃貸借契約には、(1)債務者は賃貸人の承諾を得ずに賃借地上の建物を改築しないこと、(2)債務者が右義務に違反した場合には賃貸人より直ちに契約を解除されても異議ないこと、という特約があつた。債権者は、債務者が右特約に反し、昭和三六年九月頃無断で本件建物を取りこわし増改築に着手したことを理由に、本件土地賃貸借契約解除の意思表示をして、残存建物収去土地明渡請求権保全のため、建築工事中止等の仮処分を申請した。債務者は、右特約はいわゆる例文の記載であること、またその趣旨は堅固な建物に増改築する場合のことを規制するためのものであること、仮りにそうでないとしてもこの特約は借地法が借地人のために賃貸借の更新を助長し、或いは建物買取請求権を肯定した法意をくぐりぬけようとするもので、借地法第一一条にいわゆる借地権者に不利な約款として無効であることなどを主張して、右特約に基く解除の効力を争つた。
判決は、右無断増改築禁止特約の解釈および効力について次のように判示し、本件仮処分申請を却下した。曰く、
「一般に借地契約の内容として地上建物の無断増改築禁止の特約が存在する場合に、右特約並びにこれに違反したことを理由とする契約解除の効果については争の存するところである。借地法の適用を受ける借地権者は、目的土地を契約で定められた種類の建物の所有のために完全なる使用収益の権限を与えられているものであるから、増改築する建物の種類が同一であるならば、原則として、自由に借地上の建物を増改築することができるものと解すべきである。しかし、土地所有者が賃貸人である場合には、その土地についての経済的利益に契約上予想し得なかつたような重大な影響を及ぼす場合、例えば、同じく非堅固な建物所有を目的とする借地の場合でも住宅用建物を工場建物に改築し、しかもそれが契約の当初予想され得るような状態にはなかつた場合に迄も増改築を自由と解すべきではない。つまり当該増改築が契約をした当事者の目的ならびに借地権者の使用収益権の内容に照らして借地利用の合理的限界を逸脱する場合においては、そのような増改築については賃貸人の承諾を要件とすることは何ら差支えないものと解する。従つて当該借地契約の内容として無断増改築禁止の特約が存在する場合に、この特約の趣旨が右に述べたように合理的限界を超えた増改築を禁止する趣旨であるならばこの特約はもとより有効であるが、そうでない場合には借地法第一一条に違反して効力を生じないものと解せざるをえない。今これを本件賃貸借契約の特約について考察するに、全疎明を検討するもこの特約が借地法第一一条に違反して効力を生じないような趣旨のものであると解すべき資料がないから、この特約をもつて借地法第一一条に違反して無効なものである旨の債務者の主張は理由がないというべきである。――中略――それでは果して債務者のなす増改築が合理的な限界を超えたものといえようか。本件建物の増改築の部位程度については当事者間に争いないところ、この事実によれば改築前後の建物を比較して木造建物としての種類が同一であるのみならず、その面積、構造、使用目的において左程の変化はない事実を認めることができ、更に証人尾崎忠蔵の証言並びに弁論の全趣旨によれば、債務者はその営業活動を円滑にするため本件建物改築の必要に迫られたものである事実もうかがわれ、これらの事実を綜合すれば、債務者のした本件建物の増改築はまだ借地人としての賃借地利用の合理的限界を逸脱したものとは認めることができない。」